理由 満員電車を降りてみると、やはりなかなか危ない時間だった。 朝の二度寝を後悔しながら、私は早足で改札を抜けた。
歩き慣れた市街地の風景をいつもよりペースを上げて進む。 息が白む季節にスーツはいささかキツいが、 電車の息巻くぬるさのせいか早歩きのせいか幾分かはマシだった。
ふと見やると、塀を歩く猫がいた。 悠々自適なその様に憎しみを軽く抱く。
彼女が私なら、と夢想する。 あんな細い塀だから、私なら落ちるだろう。 いや、私はそのとき猫だから落ちないかもしれない。 ……それでも、猫であっても私なら落ちるだろう。
私は口のなかで舌打ちをした。
瞬間、足を滑らせ猫が塀の向こうに消えた。 ギャフッと一声、そして振り返ることなく一目散に逃げ去っていった。
フッ、と私は零(こぼ)した。 笑ったのか安心したのか、自分でもわからなかった。
猫は猫。私は私。 それぞれの生き方があり、 それぞれの生きる術(すべ)があり、 それぞれの気づかぬ長点がある。
私はまた歩き出す。 あ〜あ、また遅刻だ。