自転車

俺は速いのが好きだ。
体に冷めた空気を感じる瞬間が大好きだ。

けど15歳の俺にバイクなど買えるわけもなく、
愛機のマウンテンバイクで走ることが多かった。

より強く自転車を体感するために、
脚に多く負担のかかる重いものを選んでバイト代で買った。

ビュウッ

いまも一緒に風をきっている。

いつもは地元や近場で済ませるのだが、今日は少し遠出をしてみた。

そこはある程度の距離があり、県内でもっとも急な勾配のある下り坂だ。
あと数分もすれば目的地へは着くだろう。


さすがに午前4時ということもあってか、肌寒さが際立つ。

目の前には赤く点った信号が立っている。
ブレーキをかけない主義の俺は、少しぐらい遠回りをしてでも信号を避けた。

信号を背にまっすぐ進んでいると、少し見開けた場所に出た。
まるで水平線を見ているかのように先が見えない。
たどり着いたようだった。


グッ

俺は脚に力をこめてペダルを大きく一こぎした。

そのまま慣性で俺と愛機は前へ進み、そして坂に沿って流れる。


ゴォォォオオ――

突風を感じる。
耳が血の気を失ったように冷気を感じ、聾さんばかりに振動を叩きつけてくる。

空気が俺を叩きつけているのか、俺が空気につっこんでいるのか。

痛いほどに、俺は快感をおぼえていた。

涙が溢れそうだった。

目を開くとしぶきのように散り、もう終わりが近づいていることを知った。

俺はゆっくりとレバーを引いた。
引いた。引いた。

変化はなかった。
どうやらブレーキは壊れているみたいだ。


けれど動揺することはない。俺には脚がある。
少々危険ではあるが、脚をつけて止めることもできなくはない。


俺は少し風を感じ落ち着くと、ゆっくりと爪先をつけた。

パカン

空気からではなく、肉を通じて。
見るとモモ辺りが曲がって、脚が後ろを向いていた。
あ、と思うより先に折れていると気づいた。


動揺していると気づく前に、倒れていた。


ガガガガッ

肉がそがれる感触が体に響く。
愛機が上にのしかかってくる。
骨がけずれる振動が脳に、舌に、目に響く。
跳ねる血が眼球に飛び散る。

ああ、この先は4車線だ。


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