絶望
走る、走る。
車が、走る。
何台も何台も、目の前を通り過ぎていく。
俺はタイミングを見計らっていた。
どうすれば苦痛を最小限に、絶望を終わらせることができるのか。
そもそも、この世に「善」なんてものは存在しない。
少し考えればわかるが、善とは建前で、悪とは本心のことをいう。
誰もが心のうちでは、自分の利益を考えている。
他人よりも身近な人。身近な人よりも彼女。彼女よりも自分。
俺はそう言われ、そして傷ついてきた。
だが俺は理解している。
俺も悪だ、と。
いま考えていることは、すべておのれに利のあることだ、と。
だから車に轢かれて運転手がどうなろうと、道路が血や肉片で汚れようと、それを見た子供が一生いえることのない傷を背負おうと、知ったことじゃない。
俺はタイミングを見計らっていた。
どうも一撃で終われそうなデカいのが来ない。
そう思ってみると、案外すぐにトラックが走ってきたりする。
スピードはあまり思わしくないが、なによりその重さが魅力的だった。
トラックが近づくのを、今か今かと待ち構える。
はっ、と気づいた。
なにを俺は期待しているんだ。
なぜ希望なんかもっているんだ。
俺は絶望に苛まれないと死ねないんだ。
激しい憤りが血管を駆け巡る。
死ぬことにすら、希望を抱くなんて俺は――
目の前が憤りで見えなくなっている間に、なにかが車道に飛び出しているのに気づいた。
先を越された――!?
俺もそれに倣って飛び出した。
予想以上に、トラックは遅かった。
俺より先に飛び出したものを見つめるだけの時間があった。
ガキだった。
俺の嫌いな、子供。
あどけない顔を見ていると、ぶっ飛ばしたくなる。
現に俺はぶっ飛ばしていた。
腕をつかんで、思いっきり投げ飛ばしていた。
歩道のほうへと。
ガキが転がるのを眺め、俺は振り向いた。
もう……もう、うんざりだ。
せっかく諦めたのにまだこんなガキを救おうとする不甲斐なさに、にもかかわらず救うことのできない愚かさに、そしてこんな瀬戸際になってやっと恐怖を感じる弱さに。
俺は、目の前のトラックを睨みつける。
聞こえてるよ。だからクラクションを鳴らすの、やめろ。
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